留まる時、従者橋の細きを見て驚き、後《おく》れ来る口附を招きて、馬に任せて行けといったからこの災難が起ったと怒りの余り斬らんとす。他の従者これを留め、この里に住む八十余の翁に就いて謀《はかりごと》を問う。さればとて新しき青草を竿《さお》の先に縛り付け、馬の後足の間より足に触れぬよう前足の間へ挿し入れば、馬知りて草を食《は》む。一口食いて草を後へ二、三寸引き置かば馬もそれだけ後へ踏み戻してまた一口食む。また二、三寸引きて草を置くとまた踏み戻して食む。その草尽くる時その竿を収め、今一つの竿に草を附けてやらばまた踏み戻して食む。幾度もこうしてついに土上に戻る馬の口を取りて引き返し、衆《みな》大いに悦び老人を賞賜したてふ事じゃ。予の現住地田辺町と同郡中ながら、予など二日歩いてわずかに達し得る和深《わぶか》村大字里川辺の里伝に、河童《かしゃんぼ》しばしば馬を岩崖等の上に追い往き、ちょうど右の談のような難儀に逢わせるという。
話変って『付法蔵因縁伝』にいわく、月氏国智臣|摩啅羅《またら》その王|※[#「よんがしら/(厂+(炎+りっとう))」、第4水準2−84−80]昵※[#「咤−宀」、第3水準1
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