同じく短兵もて西人の騎馬鉄砲に克《か》ちしを敵も歌に作って称讃した。これら似た話があるから、皆嘘また一つの他は嘘というように説く人もあるが、食い逃げの妙計、娼妓の手管、銀行員の遣《つか》い込みから、勲八の手柄談、何度新紙で読んでも大抵似た事ばかりで、例の多いがかえってその事実たるを証明する。
支那の馬譚で最も名高きは、『淮南子』に出た人間万事かくの通りてふ塞翁《さいおう》の馬物語であろう。これは支那特有と見えて、インドを初め諸他の国々に同似の譚あるを聞かぬ。また前年高木敏雄君から次の話が日本のほかにもありやと尋ねられ、四年間調べたが似たものもないようだから多分本邦特有でがなあろう。天文中書いたてふ『奇異雑談』に出た話で大略は、一婦人従者と旅するに駄賃馬《だちんうま》に乗る。馬の口附《くちつき》来る事遅きを詰《なじ》れば馬に任せて往かれよという故、馬の往くままに進行すると、川の面六、七間なるに大木を両《ふた》つに割って橋とす。その木の本広さ三就ばかり末は至って細し。この橋高さ一丈余、下は岩石多く聳《そび》えて流水深く、徒《かち》で渡るも眩《めま》うべし。馬この橋上を進むこと一間余にして
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