に倣うて各退却してその後の馬を衝いた。爾時《そのとき》上帝高声で聖ジョージに、汝の馬は魔に魅された早く下りよと告げ、聖《セント》しかる上はこの馬魔の所有物たれと言いて放ちやると、三歩行くや否やたちまち虫と化《な》って飛び去った、それからこの虫を魔の馬と名づく、蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]の事だというと。ガスターこれを註していわく、このような伝説が西欧と英国にもあったに相違ない、そうなくては、竜の蠅てふ英語は何の訳か分らぬ、想うにこの神魔軍の物語に、以前は神軍より聖ジョージ、魔軍より毒竜進み出で大立廻りを演じ、両軍鳴りを鎮めて見物し竜ついに負けたてふ一節があって、その竜が蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]と化《な》ったとか、聖ジョージの馬は翼あって飛び得たとかあったのが、いずれも忘れ落されしまったものかと。熊楠|惟《おも》うに、ルーマニア人も支那人と同じく蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]の形を竜に似た者と見しより右様の咄《はなし》も出来たので、林子平が日本橋下の水が英海峡の水と通うと言ったごとく、従来誰も解せなんだ蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87
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