》に蛻《かわぬ》ぎ、その鱗甲より虫出で頃刻《しばらく》して蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]の朱《あか》きに化《な》る、人これを取れば瘧《おこり》を病む、それより朱蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]を竜甲とも竜孫ともいい敢《あ》えて傷《そこな》わずと載せたを見て、支那でもこの物を竜に縁ありとするだけは解り、その形体|威《いか》めしくやや竜に似て居るから竜より生じたという事と想いいた。その後一九一五年版ガスターの『羅馬尼《ルーマニア》鳥獣譚』十四章を覧《み》るとこうあった。いわく、ルーマニア人は蜻※[#「虫+廷」、第4水準2−87−52]を魔の馬という、また多分竜の馬ともいうであろう、一名|聖《セント》ジョージの馬ともいいこの菩薩は毒竜退治で名高い、この名の起りを尋ぬるに、往古上帝常に魔と争うたが、上帝は平和好き故出来るだけ魔を寛宥してその乞うままに物を与えた、しかるに魔|悛《あらた》めず物を乞い続けてやまず、上帝耐え兼ねて天人多く集め各々好馬を与えある朝早くこれに騎《の》りて魔と戦わしめた。聖ジョージは無類の美馬に乗って先陣したが、急にその馬退却し出し、他の諸馬これ
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