種にもせよ何女が孕み生んだという事は明らかに知りやすいから、某の母は誰、そのまた母は誰と、母系統の方が至って確かだとその流義の者は主張する。これを稽《かんが》えると本統の祖先崇拝は、母系統を重んずる民にして始めて誇り行い得るはずだ。天照大神《あまてらすおおみかみ》を女神としたは理に合わぬなどの論がかえって理に合わぬと惟う。いわんややたらに養嗣系図買いなどの行わるる国と来ては、いわゆるゆかりばかりの末の藤原で、日本人の子孫に相違ないと言い張り得れば足り、猿田彦の子孫鷺坂伴内の後裔と議論したって真の詞《ことば》費《つい》えじゃ。進化論から言わば動物を距つる事遠きほどその人間が上等で、動物に一として祖先崇拝の念など起すものなければ、この点においては祖先崇拝国民が祖先構わずの国民より優等だ。したがって予は祖先崇拝を大体について主張する一人だが、今日の事情が右のごとくだから、正銘の祖先崇拝は今となっては行い得ず、それよりも大切で差し迫った用事が幾らもあるだろうと考う。ここに一言するは同姓婚と母系統は必ずしも偕《とも》に行われず、しかしフレザーが言った通り、母統を重んずるよりやむをえず同姓婚を行う
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