・プー・レロドト』十章に、十六世紀のイタリア人、殊に貴族間に不倫の行多きを攻めた末ポンタヌスの書から畜類に羞恥《しゅうち》の念ある二例を引く。一は牝犬がその子の心得違いを太《いた》く咬み懲らしたので、次は仮装した子馬と会った母馬が後に暁《さと》って数日内に絶食して死んだと馬主の直話だと。仏典にも『阿毘達磨大毘婆沙《あびだつまだいびばしゃ》論』一一九に、人が父母を殺さば無間《むげん》地獄に落ちるが、畜生が双親を殺さばどうだと問うに答えて、聡慧なるものは落ちれどしからざるものは落ちずとありて、その釈に、〈かつて聞く一聡慧竜馬、人その種を貪《むさぼ》り、母と合せしむ、馬のち暁《さと》り知り、勢を断ちて死す〉と見ゆ。『尊婆須蜜菩薩《そんばすみつぼさつ》所集論』には、〈御馬師衣を以て頭に纒う、牝馬に合するもの、すなわちこれわが母と知る、還って自らを齧み断つ〉とす。今日もアラビヤ人など極めて馬の系図を重んじ貴種の馬の血筋を堕さぬようもっとも腐心するを見れば、たまたま母子を配せしめた事もあろう。そのアラビヤ人は今日も同姓婚を重んじ、従妹は従兄の妻と極《き》めているから、婦《よめ》を求むるに先だち必ず
前へ 次へ
全212ページ中131ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング