じ、観客|麕集《きんしゅう》ついに警官出張してその通行を遮《さえぎ》るに及んだ。今日は火曜だが一週の第何日に当るかとか、時計を示して何時何分なりやとか、見物の人数やら人の身長などまで問われて答え中《あた》らぬはなかった。当時スツムプ教授これを実地精査した報告の大要はこの馬を「考える馬」と呼ぶは言実に過ぎたりで考思の力は毛頭ないが観察力は人も及ばぬ。ところへ主人また非常の辛抱もて四年間仕込んだので、一問出るごとに馬が狐狗狸《こっくり》然と蹄で土を敲《たた》いてその数で答える。その実何の考えもなく敲き続くるうち問う人の動作を視てたちまち止まるので、当人が見分け得ぬ隠微の動作に細かく注意して見逸《みのが》さぬところは驚嘆に余りありとあった。それより十二、三年前ロンドンの観場《みせものば》を流行《はや》らせた奇馬マホメットは加減の勘定し観客を数え人の齢をほぼ中てなどした。ジョセフ・ミーハン師その使主より秘訣を聴いたはこの馬を使主が対視するとたちまち地を掻き始め、下を見るとたちまちやめ、また使主の音声の調子を聴き分けて頭を下げたり振ったりするよう仕込み、それから演繹して雑多の珍芸を発展させたので
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