の鼻へ吹き込むと、眼を細うし気が遠くなった顔付して、静まりおり、極めて好物らしいと。バスク人の俗信に、驢を撲《う》ち倒しその耳に口を接して大いに叫び、その声終らぬうち大きな石でその耳を塞《ふさ》ぐと、驢深く催眠術に掛かったごとく一時ばかり熟睡して動かずと。

     心理

 性質の項に書いた秦王が燕の太子丹に烏の頭が白くなり馬に角が生えたら帰国を許そうと言う話に似たのが西暦紀元前三世紀頃ユダヤ人ベン・シラが輯《あつ》めたちゅう動物譚中に出《い》づ、いわく上帝万物を創造し終ると驢が馬と騾に向い、他の動物皆休み時あるに、われらのみこれなく不断働かにゃならぬとは不公平極まる、因って多少の休み時を賜えと祷《いの》ろうと言って祷ったが上帝許さず。汝の尿が水力機を動かすほどの川となり汝の糞が馥郁《ふくいく》と芳香を発する時節が来たら汝始めて休み得べしと言った。爾来驢|毎《つね》に他の驢の尿した上へ自分の尿を垂れ加え糞するごとに必ずこれを嗅《か》ぐと。かつて一八〇四年ミナルノ版『伊太利古文学全集《クラスシチ・イタリヤ》』に収めある十五、六世紀の物に、人が大便したら必ずそれを顧み視るは何故ぞてふ論
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