》とも思わず一心に走り廻って、牡猫の情を受け返るを、知らぬは亭主ばかりなりで、猫を木の股から生まるるごとく想いいたのだ。そのごとく、馬が交会せずに孕み生むを見て、始めは人に見えぬよう竜と交わると信じたが、追々は竜の精を含める水さえ呑《の》めば孕むと想い、甚だしきは女護島《にょごがしま》の伝説同様、ある馬は風に孕まさるといった。
 プリニウスいわく、ルシタニア(ポルトガル)のオリシポ城(今のリスボン)近所の牝馬、西風吹く時西に向えば孕み、生むところの駒は、極めて疾《と》く走れど三歳以上活きず。その隣邦ガリシアとアスツア(今スペインの内)には、チェルドネなる馬種あり、他の諸馬に異なりて、同じ側の二脚を揃えて動かし、やすやすと歩む。世に四を履《ふ》むてふ馬の歩きぶりは、これに倣うて教え込んだのだと。熊楠いわく、駱駝、駝羊《ラマ》、豹駝《ジラフ》、獅子は、同じ側の二脚を同時に進めるが、その他の諸獣いずれも前後左右の脚、交互前後して行く。人も走りまた歩む時手を振るに、右手と左足と遠ざかる時、左手と右足と近づき、右手左足近づく時、左手と右足と遠ざかる。馬またこの通りなるに、生まれ付いて駱駝流に行《
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