あらざるなり〉、ただ尻に孔あるばかりでは珍しゅうないがこれは兎の肛門の辺《ほとり》に数穴あるを指《さ》したので予の近処の兎狩専門の人に聞くと兎は子を生むとたちまち自分の腹の毛を掻きむしりそれで子を被うと言った。牛が毛玉を吐く例などを比較してこの一事から子を吐くと言い出たのだろ。しかして支那の妊婦は兎を食うて産む子は痔持ちになったり毎度|嘔吐《は》いたりまた欠唇《いくち》に生まれ付くと信じたのだろう。『※雅[#「※」は「つちへん+卑」、97−16]』に咀嚼するものは九|竅《きょう》にして胎生するに独り兎は雌雄とも八竅にして吐生すと見え、『博物志』には〈兎月を望んで孕み、口中より子を吐く、故にこれを兎《と》という、兎は吐なり〉と出づ。雌雄ともに八竅とは鳥類同様生殖と排穢の両機が一穴に兼備され居るちゅう事で兎の陰具は平生ちょっと外へ見えぬからいい出したらしい、王充《おうじゅう》の『論衡《ろんこう》』に兎の雌は雄の毫《け》を舐《な》めて孕むとある、『楚辞』に顧兎とあるは注に顧兎月の腹にあるを天下の兎が望み見て気を感じて孕むと見ゆ、従って仲秋月の明暗を見て兎生まるる多少を知るなど説き出した。わが
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