ある。
上述の諸話と大分変ったのがセイロンに行わるる獅と亀の競争の話で、いわくある時小川の岸辺で亀と獅と逢う、亀獅に対《むか》い汝がこの川を跳び越えるよりも疾く予はこの川を游《およ》ぎ渡って見すべしと言った、獅奇怪な申し条かなと怪しんで日を定めて競争を約した、その間に亀その親族のある一亀を語らい当日川の此方《こなた》に居らしめ自分は川の彼方《かなた》に居り各々ラトマル花莟一つを口中に銜《ふく》む事とした、さて約束の日になって獅川辺に来り亀よ汝は用意|調《ととの》うかと問うと、用意十分と答えたので、獅サア始めようと川を跳び越えて見れば亀はすでに彼岸に居る、またこの岸へ跳び来って見ればやはり亀が早《はや》渡り着いている、同じ花莟を一つ含んでいるから二疋の別々の亀を獅が同じ一疋の亀と見たんだ、獅|焼糞《やけくそ》になり何と貴様は足の捷い亀だ、しかし予ほどに精力が続くまいいっそどっちが疲れ果て動くことのならぬまで何度も何度も試して見ようじゃないかと言うと、亀は一向動かずに二疋別々に両岸に坐りおれば好《よ》いのだから異議なくサア試そうと答えたので、獅狂人のごとく彼岸へ飛んだり此岸《しがん》へ飛
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