レそこの上の方に乾いた広場があるからそこで試して見ようそしてもし予が負けたら予と予の眷属残らず汝守宮殿の家来になりましょうと言うと、どう致しまして野猪様御一疋でいらっしゃっても恐ろしくてならぬものを御眷属まで残らず家来にしようなどとは夢存じ寄りません、だがほんの遊戯と思召《おぼしめ》して一つ御指南を仰ぎたいと守宮が答えて上の方の広場へ伴れ行き、サアあそこの樹幹にヴェロと言う茅《かや》が生えて居る、そいつを目的に競争と約束成りて野猪がサア駈け出そうと言うと守宮オット待ちなさい足場を確《しか》と検して置こうと言うて野猪の鬣《たてがみ》の直ぐ側《そば》に生えおった高い薄《すすき》に攀《よ》じ登りサア駈けろと言うと同時に野猪の鬣に躍び付いた、野猪一向御客様が己の頸に取り付いていると心付かず、むやみ無性に駈け行きてかの樹の幹に近づくとたちまち守宮は樹の幹に飛び付きそれ私の方が一足捷かったと言われて野猪腹を立て一生懸命に駈け戻ると守宮素捷くその鬣に取り付きおり、今一足で出立点と言うときたちまち野猪の前へ躍び下りる、かくすること数多回一度も野猪の勝とならなんだので憤りと憊《つか》れで死んでしまったと
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