んだり何度飛んでも亀が先にいるのでついに飛び死《じに》に死んでしまいました。
 シャムの話には金翅鳥《こんじちょう》竜を堪能《たんのう》するほど多く食おうとすれどそんなに多く竜はない、因って金翅鳥ある湖に到り、その中に亀多く居るを見てこれを食い悉《つ》くそうとした爾時《そのとき》亀高声に喚《さけ》んでわれらをただ食うとは卑劣じゃ、まず汝と競駈《かけくらべ》して亀が劣ったら汝に食わりょうというと、金翅鳥しからば試そうと言って高く天に飛び上がった、亀はたちまちその眷属一切を嘱集して百疋と千疋と万疋と十万疋と百万疋と千万疋とそれぞれ一列に並んで全地を覆うた、金翅鳥その翼力を竭《つく》し飛び進むとその下にある亀がわれの方が早くここにあると呼ばわる、いかに力を鼓して飛んでも亀が先に走り行くように見えて、とうとうヒマラヤ山まで飛んで疲れ果て、亀よわれ汝が足捷の術に精進せるを了《さと》ると言ってラサル樹に留まって休んだとある。
 ドイツにこれに似た話があって矮身の縫工が布一片を揮《ふる》うて蠅七疋を打ち殺し自分ほどの勇士世間にあらじと自賛し天晴《あっぱれ》世に出で立身せんと帯に「七人を一打にす」と銘
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