も主命を用いず、故に狩猟の途上兎を見れば中途から還《かえ》る事多しと、したがって熊野では猟夫兎を見るのみかはその名を聞くばかりでも中途から?ォ還す。アボットの書(上出)にマセドニア人兎に道を横ぎらるるを特に凶兆とし、旅人かかる時その歩立《かちだち》と騎馬とに論なく必ず引き還す。熟兎や蛇に逢うもまたしかり。スコットランドや米国でもまたしかり。ギリシアのレスボス島では熟兎を道で見れば凶、蛇を見れば吉とすと見ゆ。英国のブラウン(十七世紀の人)いわく当時六十以上の人兎道を横ぎるに逢うて困らざるは少なしと。ホームこれに追加すらく、姙婦と伴れて歩く者兎道を横切るに遭わばその婦の衣を切り裂きてこれを厭《まじない》すべしと。フォーファー州《シャー》の漁夫も、途を兎に横ぎらるれば漁に出でず(ハツリット、同前)。コーンウォールの鉱夫金掘りに之《ゆ》く途中老婆または熟兎を見れば引き還す(タイロル『原始人文篇《プリミチヴ・カルチュール》』巻一、章四)。兎途を横ぎるを忌む事欧州のほかインド、ラプランド、アラビア、南アフリカにも行わる(コックス、一〇九頁)。ギリシアではかかる時その人立ち駐《どま》りて兎を見なんだ
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