村前知事ごとき渝誓《ゆせい》してまで侮辱を加え来る者がすこぶる少なからぬからというて置く。
 民俗学者の説に諸国で穀を刈る時少々刈らずに残すはもと地を崇めしより起る。例せばドイツで穀母《こくのはは》、大母《おおはは》、麦新婦《むぎのよめ》、燕麦新婦《からすむぎのよめ》、英国で収穫女王《とりいれじょおう》、収穫貴婦人《とりいれきふじん》など称し、刈り残した稈《わら》を獣形に作りもしくは獣の木像で飾る、これ穀精《こくのせい》を標すのでその獣形種々あるが、欧州諸邦に兎に作るが多い、その理由はフレザーの大著『金椏篇《ゴルズン・バウ》』に譲り、ここにはただこんな事があると述べるまでだ。グベルナチス説に月女神ルチナは兎を使い出産を守る。パウサニアスに月女神浪人都を立てんとする者に教え兎が逃げ込む林中に創立せしめた譚《はなし》を載す。インドにもクリアン・チャンド王狩りすると兎一疋林に入りて虎と化けた、「兎ほど侮りゃ虎ほど強い」という吉瑞と判じてその地にアルモウー城を建てたという。英国で少女が毎月|朔日《ついたち》最初に言《ものい》うとて熟兎《ラビット》と高く呼べばその月中幸運を享《う》く、烟突《えん
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