いわい》は夥しく兎畜養場が立ったという(サウシ『随得手録《コンモンプレース・ブック》』一および二)。
 『礼記』に兎を食うに尻を去ると見ゆるは前述異様の排泄孔などありて不潔甚だしいかららしい。兎肉の能毒について『本草綱目』に種々述べある。陶弘景は兎肉を羮とせば人を益す、しかし妊婦食えば子を欠唇ならしむと言うた。わが邦でも『調味|故実《こじつ》』に兎は婦人懐妊ありてより誕生の百二十日の御祝い過ぐるまで忌むべしと見ゆ。スウェーデンの俗信ずらく、木に楔《くさび》を打ち込んで半ば裂けた中に楔を留めた処や兎の頭を見た妊婦は必ず欠唇の子を生むと、一体スウェーデン人はよほど妊婦の心得に注意したと見えて妊婦が鋸台の下を歩けば生まるる子の喉が鋸を挽くように鳴り続け、斑紋ある鳥卵を食えば子の膚|※[#「※」は「こめへん+造」、101−13]《あら》くて羽を抜き去った鶏の膚のごとし、豚を触《さわ》れば子が豚様に呻《うめ》き火事や創《きず》ある馬を見れば子に痣《あざ》あり、人屍の臭いを嗅げば子の息臭く墓場を行くうち棺腐れ壊れて足を土に踏み入るれば生まるる子|癲癇持《てんかんもち》となるなど雑多の先兆を列《つら
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