bツに走り懸ると彼奴《かやつ》今吐いた広言を忘れ精神散乱して杼も餅も落し命|辛々《からがら》逃げ走る、その餅原来尋常の餅でなく、ファッツの妻が夫の介性《かいしょう》なさに飽き果て情願《どうぞ》道中でコロリと参って再び生きて還らぬようと、餅に大毒を入れそれと勘付かれぬよう夥しく香料と砂糖を和して渡したやつだが、今象がファッツを追うて走る途上、餅の香りが余り高いのでちょっと嘗《な》め試みると至って甘いから何の考えもなく一嚥《ひとの》みにやらかしながらファッツに追い付いた、ファッツ今は詮術《せんすべ》尽き焼糞《やけくそ》になって取って還し一生懸命象に武者ぶり懸るとたん、ちょうど毒が廻って大象が倒れた、定めて小男は圧し潰されただろうと思うて一同城壁を下りて往き見ると、ファッツ平気で象の尸《しかばね》に騎《の》っており、落著《おちつき》払ってちょっと突いたらこの通り象は躯《からだ》が大きいが造作もなく殺さるるものをと言う、国王叡感斜めならず、即時彼を元帥と為《な》された、時に暴虎ありて国中を悩ますので王元帥に命じ討ち平らげしむ、ファッツ虎を見て魂身に添わず、樹上に逃げ上るとこの虎極めて気長くその
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