その内一、二疋は必ず死んで産まるるんだろう。インド土人いわく虎子を生まばきっとその一疋は父虎に食わると、ロメーンスの説に猫|甚《いた》く子を愛するの余り、人がむやみにその子に触《さわ》るを見ると自分で自分の子を食ってしまうとあった。予本邦の猫についてその事実たることを目撃した。虎も四疋生みながら、一、二疋足手纏いになり過ぎるので食ってしまうのかも知れぬ。虎一生一乳、乳必双虎と『類函』にも見ゆ、また人これに遇《あ》うもの敵勢を作《な》ししばしば引いて曲路に至りすなわち避け去るべし。けだし虎頂Zくて回顧する能《あた》わず直行する故なりとある、これも事実らしい。ウットの『博物画譜《イラストレイテット・ナチュラル・ヒストリー》』に虎道傍にあって餌獣の至るを俟《ま》つに必ず自分の巣に対せる側においてす。これ獣を捉えて真直《まっす》ぐに巣に行かんためで、もし巣の側にあって餌を捉えたら真直ぐに遠い向側に進み、それから身を廻して道を横ぎり元の巣の側へ還《かえ》る迂路を取らねばならぬからだ。また虎が餌獣を打たんとて跳びついて仕損じたら周章《あわ》て慙愧《はじい》り二度試みて見ずに低頭して去るとある。支那
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