と沼沢に棲む事多きも林中にも住み、また古建築の廃址《はいし》に居るを好く、水を泳ぐが上手で急がぬ時は前足もて浅深を試みて後渡る。虎ごとに章条《すじ》異なり、また一|疋《ぴき》の体で左右異なるもある。『淵鑑類函』巻四二九に虎骨|甚《はなは》だ異なり、咫尺《しせき》浅草といえども能《よ》く身伏して露《あら》われず、その※然[#「※」は「九+虎」、11−11]《こうぜん》声を作《な》すに及んではすなわち巍然《ぎぜん》として大なりとある。動物園や博物館で見ると虎ほど目に立つ物はないようだが、実際野に伏す時は草葉やその蔭を虎の章条と混じやすくて目立たず、わずかに低く薄く生えた叢《くさむら》の上に伏すもなお見分けにくい、それを支那人が誤って骨があるいは伸び脹《ふく》れあるいは縮小して虎の身が大小変化するとしたんだ。バルフォールの『印度事彙』に人あり孕んだ牝虎を十七疋まで銃殺し剖《さ》いて見ると必ず腹に四児を持っていた。しかるに生まれて最《いと》幼き児が三疋より多く母に伴《つ》れられ居るを見ず、自分で餌を覓《あさ》るほど長じた児が二疋より多く母に偕《ともな》われ居るを見なんだ。因って想うに四疋孕んで
前へ
次へ
全132ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング