t土および諸草木|微《すこ》しく絳色《こうしょく》を帯び血染のごとし、人その地を履《ふ》む者|芒刺《いばら》を負う、疑うと信ずるとをいうなく、悲愴せざるはなしと出づ。玄奘より二百余年前渡天した法顕の紀行にも竺刹尸羅《たくちゃしら》国で仏前生に身を捨て餓虎に施した故蹟に諸宝玉で餝《かざ》った大※堵波[#「※」は「あなかんむり+卒」、41−13]あり、隣邦の王公士民競うて参詣し捧げ物多く花を撒き燈を点《とも》して間断《たえま》なしと見ゆ。結局《つまり》前出『投身餓虎起塔因縁経』もこの故蹟に附けて出来た伝説らしい。それに後日更に一話を附け加えてその近処の土や草木が赤く地に芒刺多く生えたるに因んで王子身を虎に施す前に自分の血を出して彼に与えたと作ったんだ。近年カンニンガム将軍この捨身処《マニーキヤーラ》の蹟を見出したが土色依然と赤しという(一九二六年ビール訳『西域記』巻一、頁一四六)。すべて何国でも土や岩や草花など血のように赤いと血を流した蹟とか血滴《ちのしたたり》から生えたとか言い囃《はや》す、和歌山より遠からぬ星田とかいう地に近く血色の斑《ふち》ある白い巌石連なった所がある、昔|土蜘蛛《つ
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