とく風従って生じ百獣震え恐るとある。しかし全くの虚譚でもないらしく思わるるは予闇室に猫を閉じ籠《こ》めて毎度|験《ため》すと、こちらの見ようと、またあちらの向きようで一目強く光を放ち、他の目はなきがごとく暗い事がしばしばあった。また虎|嘯《うそぶ》けば風生ずとか風は虎に従うとかいうは、支那の暦に立秋虎始めて嘯くとあるごとく、秋風吹く頃より専ら嘯く故虎が鳴くのと風が吹くのと同時に起る例が至って多いのだろう。予が現住する田辺《たなべ》の船頭大波に逢うとオイオイオイと連呼《よびつづ》くれば鎮《しず》まるといい、町内の男子暴風吹き荒《すさ》むと大声挙げて風を制止する俗習がある。両《ふたつ》ながら予その場に臨んで験《ため》したが波風が呼声を聞いて停止するでなく、人が風波のやむまで呼び続けるのだった。バッチの『埃及諸神譜《ゴッズ・オヴ・ゼ・エジプチアンス》』に古エジプト人|狗頭猴《チノケフアルス》を暁の精とし日が地平より昇りおわればこの猴《さる》に化すと信じた。実はこの猴アフリカの林中に多く棲み日の出前ごとに喧噪呼号するを暁の精が旭を歓迎頌讃すと心得たからだと出づ。これも猴に呼ばれて旭が出るでなく
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