《ふしどころ》なる」、また『源氏物語』女三宮の条に見えたり、唐土《もろこし》の小説に虎を山猫という事、『西遊記』第十三回〈虎穴に陥って金星厄を解《とりのぞ》く〉といえる条に「〈伯欽|道《い》う風※[#「※」は「くちへん+何」、9−12]|是個《こ》の山猫来れり云々、只見る一隻の班爛虎〉」とあり云々」、これも伯欽が勇を恃《たの》んで虎を山猫と蔑語したのだ。

    (二) 虎の記載概略

 虎の記載を学術上七面倒に書くより『本草綱目』に引いた『格物論』(唐代の物という)を又引《またびき》するが一番手軽うて解りやすい。いわく虎は山獣の君なり、状《かたち》猫のごとくにて大きさ牛のごとく黄質黒章《きのしたじくろきすじ》、鋸牙鉤爪《のこぎりばかぎのつめ》鬚健にして尖《とが》り舌大きさ掌のごとく倒《さかさま》に刺《はり》を生ず、項《うなじ》短く鼻|※[#「※」は「へんが鼻+巛と邑を上下に組み合わせる」、10−2]《ふさが》る、これまでは誠に文簡にして写生の妙を極め居る。さてそれから追々支那人流の法螺《ほら》を吹き出していわく、夜視るに一目は光を放ち、一目は物を看《み》る、声|吼《ほ》ゆる事雷のご
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