ば後なる者また然《しか》す、虎多しといえども立《たちどこ》ろに尽すべしとは、虎を相手に鬼事《おにごと》するようで余りに容易な言いようだが、とにかくその法をさえ用いれば虎を殺すは至難の事でないらしい。また曰く支那の馬は虎を見れば便尿下りて行く能わず、胡地の馬も犬も然る事なし、これに似た話ラヤードの『波斯《ペルシア》スシヤナおよび巴比崙《バビロン》初探検記《しょたんけんき》』(一八八七年版)にクジスタンで馬が獅を怖るる事甚だしく獅近処に来れば眼これを見ざるにたちまち鼻鳴らして絆を切り逃げんとす、この辺の諸酋長獅の皮を剥製して馬に示しその貌と臭に狎《な》れて惧るるなからしむと見ゆ。畜生と等しく人も慣れたら虎を何ともなくなるだろう。したがって虎を獲た者必ずしも皆勇士でもなかろう。ベッカリはマラッカのマレー一人で十四虎を捕えた者を知る由記し、クルックは西北インドで百以上の虎を銃殺した一地方官吏ありと言った、『国史補』に唐の斐旻《はいびん》一日に虎三十一を斃《たお》し自慢しいると、父老がいうにはこれは皆彪だ、将軍真の虎に遇えば能く為すなからんと言ったので、真の虎の在処《ありか》を聞き往って見ると、
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