の声左右にあるごとく酒|几上《きじょう》に傾かざる者なしとあって、虎の声は随分大きいが獅に劣る事遠しだ、『類函』に魏明帝宣武場上にて虎の爪を断ち百姓をして縦観せしむ、虎しばしば圏《おり》を攀《よ》じて吼ゆる声地を震わし観者辟易せしに、王戎《おうじゅう》まさに十歳湛然|懼色《くしょく》なしとある、予などは毎度多くの獅、虎が圏中で吼ゆるを観たが一向懼ろしくなかった、家内にあって山上の虎声に駭《おどろ》き酒を傾《こぼ》したなどは余程の臆病者じゃ。『五雑俎』にまた曰く壮士|水碓《みずぐるま》を守りしが虎に攫《つか》まれ上に坐らる、水碓飛ぶがごとく輪《まわ》るを虎が見詰め居る内にその人甦った、手足|圧《おさ》えられて詮術《せんすべ》ない、ところが虎の陽物|翹然《にょっきり》口に近きを見、極力噛み付いたので虎大いに驚き吼え走ってその人|脱《のが》るるを得た、またいわく胡人虎を射るにただ二壮士を以て弓を※[#「※」は「士と冖と一と弓を上から順に組み合わせたもの+殳」、32−14]《ひ》き両頭より射る、虎を射るに毛に逆らえば入り毛に順《したが》えば入らず、前なる者馬を引き走り避けて後なる者射る、虎回れ
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