来た児は動作全く野獣で水を飲む様狗に異《かわ》らず、別けて骨と生肉を好み食う、常に他の孤児と一所に居らず暗き隅に竄《かく》る、衣を着せると細かく裂いて糸と為《な》しおわる、数月院にあって熱病に罹り食事を絶って死した。今一人狼※[#「※」は「あなかんむり+果」、29−6]より得られこの院に六年ばかりある児は年十三、四なるべし、種々の声を発し得るが談話は出来ず喜怒は能《よ》く他人に解らせ得、時として少しく仕事をするが食う方が大好きだ、追々生肉を好まぬようになったが今なお骨を拾うて歯を磨《と》ぐ、これら狼※[#「※」は「あなかんむり+果」、29−9]から出た児が四肢で巧く歩くは驚くべきもので、物を食う前に必ずこれを嗅ぎ試むとある。著者ポール氏自らかの孤児院に往きてその一人を延見《ひきみ》しに普通の白痴児の容体で額低く歯やや反《そ》り出《で》動作軽噪時々歯を鳴らし下顎|攣《ひき》つる、室に入り来てまず四周《ぐるり》と人々を見廻し地板《ゆかいた》に坐り両掌を地板に較《の》せ、また諸方に伸ばして紙や麪包《パン》の小片《かけ》を拾い嗅ぐ事猴のごとし、この児|痩形《やせがた》にて十五歳ばかりこの院に九
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