視ると口中に骨|哽《たて》り、手を以て去《と》ってやると明日鹿一疋持ち来って献じた。また都区宝という人父の喪で籠りいた時里人虎を追う、虎その廬に匿《かく》れたのを宝が簔で蔵《かく》しやって免がれしめた、それから時々野獣を負ってくれに来たとある。古ギリシアの人が獅のために刺《とげ》を抜きやり、のち罪獲て有司《やくにん》その人を獅に啖わすとちょうど以前刺を抜いてやった獅であって一向啖おうとせず、依って罪を赦された話は誰も知るところだ。これらはちょっと聞くと嘘ばかりのようだが予年久しく経験するところに故ロメーンス氏の説などを攷《かんが》え合わすと猫や梟《ふくろう》は獲物を人に見せて誇る性がある、お手の物たる鼠ばかりでなく猫は蝙蝠《こうもり》、梟は蛇や蟾蜍《ひきがえる》など持ち来り予の前へさらけ出し誠に迷惑な事度々だった。故セントジョージ・ミヴワートは学者|一汎《いっぱん》に猴類を哺乳動物中最高度に発達したる者と断定し居るは、人と猴類と体格すこぶる近く、その人が自分免許で万物の長と己惚《うぬぼ》るる縁に付けて猴が獣中の最高位を占めたに過ぎぬが、人も猴も体格の完備した点からいうと遠く猫属すなわち
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