》を決《き》って去る、虎の情その※[#「※」は「あしへん+番」、21−9]を愛せざるにあらざれど、環寸《わずか》の※[#「※」は「あしへん+番」、21−10]を以て七尺の躯を害せざる者は権なりとあって虎の決断を褒《ほ》め居る。ロメーンスの説に狐が足を係蹄に捉われて危殆と見ると即刻自ら咬み切って逃ぐるは事実だとある。『大英類典《エンサイクロペジア・ブリタニカ》』第十一版獅の条を見ると近来獅の性実は卑怯なる由言う人多しとあって、要は人と同じく獅もことごとく勇猛ならず、中には至って臆病な奴もありなんと結論し居る。かかる噂は今に始まったのでなくレオ・アフリカヌスが十六世紀に既に言って居る。モロッコのマグラ市近き野に獅が多いが極めて怯懦《きょうだ》で、小児が叱ると狼狽|遁《に》げ去《さ》る、その辺の大都フェスの諺に口ばかり剛情な怯者を詈《ののし》って汝はアグラの獅ほど勇なり犢《こうし》にさえ尾を啖《く》わるべしというとある。虎もこの例で至って臆病なのもあるらしく、前年スヴェン・ヘジン、チベット辺で水を渡る虎の尾を小児に曳かれて何事もなからざりしを見たと何かで読んだ。さらば虎に勝った勇士の内には真
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