すめ》を喚び、ひそかにこれに告げていわく、われ今宝あり、宝中の上なるものはまさにもって汝に遺すべし、汝この宝を得れば密蔵すること堅からしめ、王に知らしむることなかれ、と。女《むすめ》、父の勅を受け、摩尼《まに》珠および諸珍宝を持って、これを糞穢に蔵す。室家大小とも、みなまた知らず。世の飢饉に値《あ》い、女の夫、妻に告ぐらく、わが家貧窮して衣食に困《くる》しむ、汝は他《よそ》へ行き自活の処を求むべし、と。妻、夫に白《もう》していわく、わが父の長者、命終に臨める時、宝をもってわれに賜い、今某処にあり、君これを取るべし、と。時に夫掘り取って、大いに珍宝と如意珠を獲《う》。如意珠を持って焼香礼拝し、まず願を発していわく、わがために食を雨《ふ》らせよ、と。語に随ってすなわち百味の飲食《おんじき》を雨らす。かくのごとく種々のもの意に随って宝を得。時に夫、得おわって、その妻に告げていわく、卿《なんじ》は天女のわれに宝を賜うがごとし、汝この宝を蔵せるをわれなお知らず、いわんやまた他人においておや、と」。これは、死んでゆく父が娘の賢きを知り抜き、隠さずに宝を譲ったのを、娘がまさかの時に用いんとて、よく隠
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