。家人大小とも知るものあるなし。時に異人あり、よく方便を知って貧しき女人に語る、われ今汝を雇わん、汝わがために草穢《ざっそう》を耘除《くさぎ》るべし、と。女すなわち答えていわく、われ能わざるなり、汝もしよく我子《われ》の金蔵を示さば、然るのちにすなわちまさに速やかに汝のために作《な》すべし、と。この人またいわく、われ方便を知る、よく汝子《なんじ》に示さん、と。女人答えていわく、わが家大小ともなおみずから知らず、いわんや汝よく知らんや、と。この人またいわく、われ今|審《つまび》らかに能《よ》くす、と。女人答えていわく、われまた見んと欲す、あわせてわれに示すべし、と。この人すなわちその家において、真金の蔵を掘り出だす。女人見おわって、心に歓喜を生じ、奇特の想いを生じて、この人を宗《たっと》び仰ぐ」とある。
『観仏三昧海経』一〇に、「復次《また》、阿難のいう。譬うれば長者、財産|多饒《ゆたか》にして、諸子息なく、ただ一女あるのみ。この時、長者百歳を過ぎ、みずから朽邁して死なんとすること久しからざるを知る。わがこの財宝は、男児なき故に、財はまさに王に属すべし、と。かかる思惟を作し、その女子《む
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