はしばらく耳をかたむけていると、風と電線との音が実際怪しくきこえるのであった。彼も幾年のあいだ、ここに長い冬の夜を過ごして、ただひとりで寂しくそれを聴いていたのである。しかも彼は、自分の話はまだそれだけではないと言った。
 わたしは中途で口をいれたのを謝して、更にそのあとを聴こうとすると、彼は私の腕に手をかけながら、またしずかに話し出した。
「その影があらわれてから六時間ののちに、この線路の上に怖ろしい事件が起こったのです。そうして十時間ののちには、死人と重症者がトンネルの中から運ばれて、ちょうどその影のあらわれた場所へ来たのです」
 わたしは不気味な戦慄を感じたが、つとめてそれを押しこらえた。この出来事はさすがに※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》であるとはいえない。まったく驚くべき暗合《あんごう》で、彼のこころに強い印象を残したのも無理はない。しかも、かくのごとき驚くべき暗合がつづいて起こるというのは、必ずしも疑うべきことではなく、こういう場合も往々《おうおう》にあり得るということを勘定のうちに入れておかなければならない。もちろん、世間多数の常識論者は、とかく
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