世界怪談名作集
信号手
ディッケンズ Charles Dickens
岡本綺堂訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)嶮《けわ》しい

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》
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「おぅい、下にいる人!」
 わたしがこう呼んだ声を聞いたとき、信号手は短い棒に巻いた旗を持ったままで、あたかも信号所の小屋の前に立っていた。この土地の勝手を知っていれば、この声のきこえた方角を聞き誤まりそうにも思えないのであるが、彼は自分の頭のすぐ上の嶮《けわ》しい断崖の上に立っている私を見あげもせずに、あたりを見まわして更に線路の上を見おろしていた。
 その振り向いた様子が、どういう訳《わけ》であるか知らないが少しく変わっていた。実をいうと、わたしは高いところから烈《はげ》しい夕日にむかって、手をかざしながら彼を見ていたので、深い溝《みぞ》に影を落としている信号手の姿はよく分からなかったのであるが、ともかくも彼の振り向い
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