プでトンネルの入り口の赤い灯のまわりを見まわしたのち、その赤い灯の鉄梯子をつたって、頂上の展望台に登りました。それからまた降りて来て、そこまで駈けて戻りましたが、どうも気になるので、上り線と下り線とに電信を打って〈警戒の報知が来た。何か事故が起こったのか〉と問い合わせると、どちらからも同じ返事が来て〈故障なし〉……」
この話を聞かされて、なんだか背骨がぞっとするような心持ちになったが、私はそれを堪《こら》えながら、そんなあやしい人影などはなにかの視覚のあやまりである。あらぬものの影を見たりするのは神経作用から起こるもので、病人などにはしばしばその例を見ることがあると話して聞かせた。また、そんな人びとのうちには、そういう苦悩を自覚し、それを自分で実験している人さえあるということをも話した。
「その叫び声というのも……」と、わたしは言った。「まあ、すこしのあいだ聴いていてご覧なさい。こんな不自然な谷間のような場所では、われわれが小さい声で話している時に、電信線が風にうなるのを聞くと、まるで竪琴《たてごと》を乱暴に鳴らしているように響きますからね」
彼はそれに逆《さか》らわなかった。二人
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