まともに見下せる運動場で、スポンヂ野球が始まつてゐるのだ。東京で頭のひどく忙しい彼は休日に草野球を見ることで轉換を計つてゐるらしい。彼が二階に落着いたのを知ると私は大きな卓に書簡箋を擴げ、本家の快諾を得られたら、次の日曜の早朝立つことにして、自分は前夜からお迎へに上る旨の返事を認めた。それから、長いこと女中のゐない女中部屋に行き、部屋の半ばを占領してゐる食料品の整理にかかつた。

       二

 遺骨と喪服とで身動きもならぬ小田急だつたが、氣の毒な一團の去つたあとは急にがらあきになつてしまつた。ほつとして腰を下すと、硝子のない窓から吹き入る風が後れ毛を眼の上へ叩きつける。それを拂ふ拍子に私はふと、出入口の方から私の靴を見てゐる進駐兵のあるのに氣付いた。此服には此靴しかないと思つて穿いた紺の變り型なのだが、汚い下駄の並んだ間では目に立つ代物だつたかも知れない。私は氣付かぬ振りで別の方に目を向けた。GIがもう一人車内を睨めながら釣革でぶらんこをしてゐる。彼はふと吊る下つたまま頭を低くして窓外の雲を覗き、天候に就いて何かつぶやいた。さつきから私も雲行の不穩なのを氣にしてゐたところだつた
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