おばあさん
ささきふさ
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)楊梅《やまもも》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]して
−−
一
「おばあさんがいよいよ來るんですとさ。」
私はひとごとのやうに云つて、彼の顏色をチラと窺つた。
「來られるのかね。」
「來るときめてゐるらしいわ。」
私達夫婦は何事につけてもあまり多くを語らない。大きな卓の向うで、彼は僅かな言葉を洩らす間も、たいてい何かを讀んでゐる。私は傳へなければならない僅かをやうやうの思ひで云つてしまふと、いつもの癖で、目を硝子戸の外に向けた。つい先達て汗だくになつて刈込をした楊梅《やまもも》の枝枝には、茜とも鳶ともつかぬ色のつややかな葉が、可愛らしくもう出揃つてゐる。空には淡い白雲が、動くとも見えない。がその切れめには更に淡い、紗を振つたやうな一群が、押されるやうななだらかさで流れ過ぎて行く。上層にはごく僅かな動きがあるらしい。音なき音樂
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