、うそのやうに小さいおばあさんだつた。おばあさんの背中は直角に近いほどに曲つてゐる。曲つた背の上に眞白なオールバックがぴかぴかと光つてゐる。記憶に殘るおばあさんの母親も美しい顏立だつたが、おばあさんは九十三だといふのに、いまだに冴えた目と正しい鼻とを保持してゐる。此系統は私達の代になつて、それぞれに崩れてしまつたのだ。私は綺麗なおばあさんを伴れて行くことが誇らしくもあつた。
驛の階段を登るおばあさんの足取は驚くべき速さだつた。左右から抱へ上げるやうにしてもらつてゐるのだが、おばあさん自身の一生懸命さで足は先走りして見えるくらゐだ。大柄な本家主人はまだしやつきりしてゐる。が本家の背中はおばあさんの輪郭をそのまま擴げたやうである。私はよく似てゐながら少しも相容れぬおばあさんと本家とが今日だけ、――永の別れになるかも知れない今だけ手を取り合つてゐるのを見て、いつたい何が原因でかうまで意地を張り合ふ仲になつたのだらうと、今更不思議でならなかつた。本家と死んだ良郎とは少年時代から犬猿も啻ならぬ間柄だつたので、次兄の生きてゐる間は孝養を盡してくれるものへの義理から本家とよそよそしくしてゐるのかと
前へ
次へ
全31ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ささき ふさ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング