すんで飛びとびに挾まれてある。それらは私から離れて二十餘年、兄の生活につきまとつてきたわけである。私はその數册を拔き出して伊東へ持つて行くことにした。
四
五時半に仕度を終へ、臺所口から本家へ挨拶に行かうとすると、もう下駄をつつかけた本家が、送るから早く出かけろと、手と顎とでヴェランダの上から云つた。私は一度引込んで納戸から玄關へ拔け、おばあさんのしやちこばつた足に草履を穿かせた。女中はざつとお勝手を片付けて、あとから驛に走るとのことだつた。おばあさんのよちよちに調子を合せておばあさんの表札のかかつてゐる隱居所の門を出ると、早朝の並木路に本家夫妻はもうおばあさんを待つてゐた。二人はおばあさんを私の手から奪ひ、雙方から抱へるやうにして歩き出した。
雲は低いが、立木とすれすれの東の空には一刷けのオレンヂ色が光つてゐる。風といふほどの風もない。どうやら私の望み通り、今日一杯はもつてくれさうな模樣である。次兄の靈もきつと途次を守つてくれるだらう。私は出がけに一枚掴んできた小型の座蒲團を手堤と一緒に小脇に抱へ、片手にはお辨當の包を提げて三人六脚のあとに從つた。外に出てみると
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