だから、さして憎むにも当らんのだ」
「ええ、些《ほん》の太好《いけす》かないばかりです!」
「それぢや余り差《ちが》はんぢやないか」
「あんな奴は那箇《どつち》だつて可いんでさ。第一|活《い》きてゐるのが間違つてゐる位のものです。
 本当に世間には不好《いや》な奴ばかり多いのですけれど、貴方、どう云ふ者でせう。三千何百万とか、四千万とか、何でも太《たい》した人数《ひとかず》が居るのぢや御座いませんか、それならもう少し気の利《き》いた、肌合《はだあひ》の好い、嬉《うれし》い人に撞見《でつくは》しさうなものだと思ひますのに、一向お目に懸りませんが、ねえ」
「さう、さう、さう!」
「さうして富山みたやうなあんな奴がまあ紛々然《うじやうじや》と居て、番狂《ばんくるはせ》を為て行《ある》くのですから、それですから、一日だつて世の中が無事な日と云つちや有りは致しません。どうしたらあんなにも気障《きざ》に、太好《いけす》かなく、厭味《いやみ》たらしく生れ付くのでせう」
「おうおう、富山唯継散々だ」
「ああ。もうあんな奴の話をするのは馬鹿々々しいから、貴方、舎《よ》しませうよ」
「それぢやかう云ふ話が有る」
「はあ」
「一体男と女とでは、だね、那箇《どつち》が情合が深い者だらうか」
「あら、何為《なぜ》で御座います」
「まあ、何為《なぜ》でも、お前さんはどう思ふ」
「それは、貴方、女の方がどんなに情が」
「深いと云ふのかね」
「はあ」
「信《あて》にならんね」
「へえ、信にならない証拠でも御座いますか」
「成程、お前さんは別かも知れんけれど」
「可《よ》う御座いますよ!」
「いいえ、世間の女はさうでないやうだ。それと云ふが、女と云ふ者は、慮《かんがへ》が浅いからして、どうしても気が移り易《やす》い、これから心が動く――不実を不実とも思はんやうな了簡も出るのだ」
「それはもう女は浅捗《あさはか》な者に極《きま》つてゐますけれど、気が移るの何のと云ふのは、やつぱり本当に惚《ほ》れてゐないからです。心底から惚れてゐたら、些《ちつと》も気の移るところは無いぢや御座いませんか。善く女の一念と云ふ事を申しますけれど、思窮《おもひつ》めますと、男よりは女の方が余計夢中に成つて了ひますとも」
「大きにさう云ふ事は有る。然し、本当に惚れんのは、どうだらう、女が非《わる》いのか、それとも男の方が非いの
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