云ふと何か酷《ひど》く偉がるやうで、聞辛《ききづら》いか知らんけれど、これは心易立《こころやすだて》に、全く奥底の無いところをお話するのだ。
 いやさう考込まれては困る。陰気に成つて可かんから、話はもう罷《やめ》に為《せ》う。さうしてもつと飲み給へ、さあ」
「いいえ、どうぞお話をお聞せなすつて下さいまし」
「肴《さかな》に成るやうな話なら可いがね」
「始終狭山ともさう申してをるので御座いますけれど、旦那様は御病身と云ふ程でも無いやうにお身受申しますのに、いつもかう御元気《ごげんき》が無くて、お険《むづかし》いお顔面《かほつき》ばかりなすつてゐらつしやるのは、どう云ふものかしらんと、陰ながら御心配申してをるので御座いますが」
「これでお前さん方が来てくれて、内が賑《にぎや》かに成つただけ、私も旧《もと》から見ると余程《よつぽど》元気には成つたのだ」
「でもそれより御元気がお有《あん》なさらなかつたら、まあどんなでせう」
「死んでゐるやうな者さ」
「どうあそばしたので御座いますね」
「やはり病気さ」
「どう云ふ御病気なので」
「鬱《ふさ》ぐのが病気で困るよ」
「どう為てさうお鬱ぎあそばすので御座います」
 貫一は自ら嘲《あざけ》りて苦しげに哂《わら》へり。
「究竟《つまり》病気の所為《せゐ》なのだね」
「ですからどう云ふ御病気なのですよ」
「どうも鬱ぐのだ」
「解らないぢや御座いませんか! 鬱ぐのが病気だと有仰《おつしや》るから、どう為てお鬱ぎ遊《あそば》すのですと申せば、病気で鬱ぐのだつて、それぢや何処《どこ》まで行つたつて、同じ事ぢや御座いませんか」
「うむ、さうだ」
「うむ、さうだぢやありません、緊《しつか》りなさいましよ」
「ああ、もう酔つて来た」
「あれ、未だお酔ひに成つては可けません。お横に成ると御寐《おやすみ》に成るから、お起きなすつてゐらつしやいまし。さあ、貴方」
 お静は寄《よ》りて、彼の肘杖《ひぢづゑ》に横《よこた》はれる背後《うしろ》より扶起《たすけおこ》せば、為《せ》ん無げに柱に倚《よ》りて、女の方を見返りつつ、
「ここを富山|唯継《ただつぐ》に見せて遣りたい!」
「ああ、舎《よ》して下さいまし! 名を聞いても慄然《ぞつ》とするのですから」
「名を聞いても慄然《ぞつ》とする? さう、大きにさうだ。けれど、又考へて見れば、あれに罪が有る訳でも無いの
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