は覚えず貫一の面《おもて》を見据ゑて、更にその目を窃《ひそか》に合せつ。
 四辺《あたり》も震ふばかりに八声《やこゑ》の鶏《とり》は高く唱《うた》へり。
 夜すがら両個《ふたり》の運星|蔽《おほ》ひし常闇《とこやみ》の雲も晴れんとすらん、隠約《ほのぼの》と隙洩《すきも》る曙《あけぼの》の影は、玉の緒《を》長く座に入りて、光薄るる燈火《ともしび》の下《もと》に並べるままの茶碗の一箇《ひとつ》に、小《ちひさ》き蛾《が》有りて、落ちて浮べり。
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  新 続 金 色 夜 叉


     第 一 章

 生れてより神仏《かみほとけ》を頼み候事《さふらふこと》とては一度も無御座候《ござなくさふら》へども、此度《このたび》ばかりはつくづく一心に祈念致し、吾命《わがいのち》を縮め候代《さふらふかはり》に、必ず此文は御目《おんめ》に触れ候やうにと、それをば力に病中ながら筆取りまゐらせ候。幸《さいはひ》に此の一念通じ候て、ともかくも御披《おんひらか》せ被下候《くだされさふら》はば、此身は直ぐ相果《あひは》て候とも、つゆ憾《うらみ》には不存申候《ぞんじまをさずさふらふ》。元より御憎悪強《おんにくしみつよ》き私《わたくし》には候《さふら》へども、何卒《なにとぞ》是《これ》は前非を悔いて自害いたし候|一箇《ひとり》の愍《あはれ》なる女の、御前様《おんまへさま》を見懸《みか》けての遺言《ゆいごん》とも思召《おぼしめ》し、せめて一通《ひととほ》り御判読《ごはんどく》被下候《くだされさふら》はば、未来までの御情《おんなさけ》と、何より嬉《うれし》う嬉う存上《ぞんじあ》げまゐらせ候。
 扨《さて》とや、先頃に久々とも何とも、御生別《おんいきわかれ》とのみ朝夕《あさゆふ》に諦《あきら》め居《を》り候|御顔《おんかほ》を拝し、飛立つばかりの御懐《おんなつか》しさやら、言ふに謂れぬ悲しさやらに、先立つものは涙にて、十年越し思ひに思ひまゐらせ候事何一つも口には出ず、あれまでには様々の覚悟も致し、また心苦《こころぐるし》き御目《おんめ》もじの恥をも忍び、女の身にてはやうやうの思にて参じ候効《さふらふかひ》も無く、誠に一生の無念に存じまゐらせ候。唯其折《ただそのをり》の形見には、涙の隙《ひま》に拝しまゐらせ候|御姿《おんすがた》のみ、今に目に附き候て旦暮《あけくれ》忘《わす》れやらず、あらぬ人の
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