の妻なんどにはあらじ、と独《ひと》り合点せり。

     第 三 章

 かの男女《なんによ》は※[#「※」は「女+兌」、420−16]《いと》しさに堪《た》へざらんやうに居寄りて、手に手を交《まじ》へつつ密々《ひそやか》に語れり。
「さうなの、だから私はどんなに心配したか知れやしない。なかなか貴方《あなた》がここで想つてゐるやうな訳に行きは為《し》ませんとも。そりや貴方の心配もさうでせうけれど、私の心配と云つたら、本当に無かつたの。察しるが可《い》いつて、そりや貴方、お互ぢやありませんか。吁《ああ》、私は今だに胸が悸々《どきどき》して、後から追掛《おつか》けられるやうな気持がして、何だか落着かなくて可けない」
「まあ何でも、かうして約束通り逢《あ》へりや上首尾なんだ」
「全くよ。一昨日《をととひ》の晩あたりの私の心配と云つたら、こりやどうだかと、さう思つたくらゐ、今考へて見れば、自分ながら好く出られたの。やつぱり尽きない縁なのだわ」
 些《ちよ》と男の顔を盻《みや》りて、濡《ぬ》るる瞼《まぶた》を軽く拭《ぬぐ》へり。
「その縁の尽きないのが、究竟《つまり》彼我《ふたり》の身の窮迫《つまり》なのだ。俺《おれ》もかう云ふ事に成らうとは思はなかつたが、成程、悪縁と云ふ者は為方《しかた》の無いものだ」
 女は尚窃《なほひそか》に泣きゐる面《おもて》を背《そむ》けたるまま、
「貴方は直《ぢき》に悪縁だ、悪縁だと言ふけれど、悪縁ならどうするんです!」
「悪縁だからかうなつたのぢやないか」
「かう成つたのがどうしたんですよ!」
「今更どうするものか」
「当然《あたりまへ》さ! 貴方は一体水臭いんだ!!」
「おい、お静《しず》、水臭いとは誰の事だ」
 色を作《な》せる男の眼《まなこ》は、つと湧《わ》く涙に輝けり。
「貴方の事さ!」
 女の目よりは漣々《はらはら》と零《こぼ》れぬ。
「俺の事だ?! お静……手前《てめへ》はそんな事を言つて、それで済むと思ふのか」
「済んでも済まなくても、貴方が水臭いからさ」
「未《ま》だそんな事を言やがる! さあ、何が水臭いか、それを言へ」
「はあ、言ひますとも。ねえ、貴方は他《ひと》の顔さへ見りや、直《ぢき》に悪縁だと云ふのが癖ですよ。彼我《ふたり》の中の悪縁は、貴方がそんなに言《いは》なくたつて善く知つてゐまさね。何も貴方|一箇《ひとり》の悪
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