から変に成つたので御座いますよ。お宅に詣《あが》つて気が違つたのですから、元の正気に復《なほ》してお還し下さいまし」
 彼は擦寄《すりよ》り、擦寄りて貫一の身近に逼《せま》れり。浅ましく心苦《こころくるし》かりけれど迯《に》ぐべくもあらねば、臭き物に鼻を掩《おほ》へる心地しつつ、貫一は身を側《そば》め側め居たり。満枝は猶《なほ》も寄添はまほしき風情《ふぜい》にて、
「就きましては、私|一言《いちごん》貴方に伺ひたい事が有るので御座いますが、これはどうぞ御遠慮無く貴方の思召す通を丁《ちやん》と有仰《おつしや》つてお聞せ下さいまし、宜《よろし》う御座いますか」
「何ですか」
「なんですかでは可厭《いや》です、宜《よろし》いと截然《きつぱり》有仰《おつしや》つて下さい。さあ、さあ、貴方」
「けれども……」
「けれどもぢや御座いません。私の申す事だと、貴方は毎《いつ》も気の無い返事ばかり遊ばすのですけれど、何も御迷惑に成る事では御座いませんのです、私の申す事に就て貴方が思召す通を答へて下されば、それで宜《よろし》いのですから」
「勿論《もちろん》答へます。それは当然《あたりまへ》の事ぢやないですか」
「それが当然《あたりまへ》でなく、極打明けて少しも裹《つつ》まずに言つて戴きたいのですから」
 善《よし》と貫一は頷《うなづ》きつ。
「では、きつと有仰つて下さいまし。間さん、貴方《あなた》は私を※[#「※」は「勞/心」、374−8]《うるさ》い奴だと思召してゐらつしやるで御座いませう。私始終さう思ひながら、貴方の御迷惑もかまはずにやつぱりかうして附纏《つきまと》つてゐるのは、自分の口から箇様《かよう》な事を申すのも、甚《はなは》だ可笑《をかし》いので御座いますけれど、私、実に貴方の事は片時でも忘れは致しませんのです。それは如何《いか》に思つてをりましたところが、元来《もともと》私と云ふ者を嫌《きら》ひ抜いて御在《おいで》なのですから、あの歌が御座いますね、行く水に数画《かずか》くよりも儚《はかな》きは、思はぬ人を思ふなりけりとか申す、実にその通り、行く水に数を画くやうな者で、私の願の※[#「※」は「りっしんべん+(篋−竹)」、374−13]《かな》ふ事は到底無いので御座いませう。もうさうと知りながら、それでも、間さん、私こればかりは諦《あきら》められんので御座います。
 こん
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