ね。一体まあどうなすつたと云ふので御座いませう、那裡《あちら》にも這裡《こちら》にもお客様を置去《おきざり》に作《なす》つてからに。はてね、まあ、どうもお出掛になる訳は無いので御座いますけれど、家中には何処《どつこ》にもゐらつしやらないところを見ますと、お出掛になつたので御座いますかしらん。それにしても……まあ御免あそばしまして」
 彼は又満枝の許《もと》に急ぎ行きて、事の由《よし》を告げぬ。
「いいえ、貴方《あなた》、私は見て参りましたので御座いますよ。子亭《はなれ》にゐらつしやりは致しません、それは大丈夫で御座います」
 彼は遽《にはか》に心着きて履物《はきもの》を検《あらた》め来んとて起ちけるに、踵《つ》いで起てる満枝の庭前《にはさき》の縁に出づると見れば、※[#「※」は「にんべん+從」、361−2]々《つかつか》と行きて子亭《はなれ》の入口に顕《あらは》れたり。
 宮は何人《なにびと》の何の為に入来《いりきた》れるとも知らず、先《ま》づ愕《おどろ》きつつも彼を迎へて容《かたち》を改めぬ。吾が恋人の恋人を拝まんとてここに来にける満枝の、意外にも敵の己《おのれ》より少《わか》く、己より美く、己より可憐《しをらし》く、己より貴《たつと》きを見たる妬《ねた》さ、憎さは、唯この者有りて可怜《いと》しさ故に、他《ひと》の情《なさけ》も誠も彼は打忘るるよとあはれ、一念の力を剣《つるぎ》とも成して、この場を去らず刺殺《さしころ》さまほしう、心は躍《をど》り襲《かか》り、躍り襲らんと為るなりけり。
 宮は稍羞《ややはぢら》ひて、葉隠《はがくれ》に咲遅れたる花の如く、夕月の涼《すずし》う棟《むね》を離れたるやうに満枝は彼の前に進出《すすみい》でて、互に対面の礼せし後、
「始めましてお目に掛りますで御座いますが、間様の……御親戚? でゐらつしやいますで御座いますか」
 憎き人をば一番苦めんの満枝が底意なり。
「はい親類筋の者で御座いまして」
「おや、さやうでゐらつしやいますか。手前は赤樫満枝と申しまして、間様とは年来の御懇意で、もう御親戚同様に御交際を致して、毎々お世話になつたり、又及ばずながらお世話も致したり、始終お心易く致してをりますで御座いますが、ついぞ、まあ従来《これまで》お見上げ申しませんで御座いました」
「はい、つい先日まで長らく遠方に参つてをりましたもので御座います
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