やうにと有仰《おつしや》つて、お名前を伺つても、学校の友達だと言へば可い、とさう有仰《おつしや》つてお帰りになりました」
「学校の友達?」
 臆測《おしあて》にも知る能《あた》はざるはこの藪《やぶ》から棒の主《ぬし》なり。
「どんな風の人かね」
「さやうでございますよ、年紀《としごろ》四十ばかりの蒙茸《むしやくしや》と髭髯《ひげ》の生《は》えた、身材《せい》の高い、剛《こは》い顔の、全《まる》で壮士みたやうな風体《ふうてい》をしてお在《いで》でした」
「…………」
 些《さ》の憶起《おもひおこ》す節《ふし》もありや、と貫一は打案じつつも半《なかば》は怪むに過ぎざりき。
「さうして、まあ大相横柄な方なのでございます」
「明日《あした》三時頃に又来ると?」
「さやうでございますよ」
「誰《たれ》か知らんな」
「何だか誠に風の悪さうな人体《にんてい》で御座いましたが、明日《みようんち》参りましたら通しませうで御座いますか」
「ぢや用向は言つては行かんのだね」
「さやうでございますよ」
「宜《よろし》い、会つて見やう」
「さやうでございますか」
 起ち行かんとせし老婢は又居直りて、
「それから何でございました、間もなく赤樫《あかがし》さんがいらつしやいまして」
 貫一は懌《よろこ》ばざる色を作《な》してこれに応《こた》へたり。
「神戸の蒲鉾《かまぼこ》を三枚、見事なのでございます。それに藤村《ふじむら》の蒸羊羹《むしようかん》を下さいまして、私《わたくし》まで毎度又|頂戴物《ちようだいもの》を致しましたので御座います」
 彼は益す不快を禁じ得ざる面色《おももち》して、応答《うけこたへ》も為《せ》で聴きゐたり。
「さうして明日《みようんち》、五時頃|些《ちよい》とお目に掛りたいから、さう申上げて置いてくれと有仰《おつしや》つてで御座いました」
 可《よ》しとも彼は口には出《いだ》さで、寧《むし》ろ止《や》めよとやうに忙《せはし》く頷《うなづ》けり。

     (四) の 二

 学校友達と名宣《なの》りし客はその言《ことば》の如く重ねて訪《と》ひ来《き》ぬ。不思議の対面に駭《おどろ》き惑へる貫一は、迅雷《じんらい》の耳を掩《おほ》ふに遑《いとま》あらざらんやうに劇《はげし》く吾を失ひて、頓《とみ》にはその惘然《ぼうぜん》たるより覚むるを得ざるなりき。荒尾譲介は席の温《あたた
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