ま》る間《ひま》の手弄《てまさぐり》に放ちも遣《や》らぬ下髯《したひげ》の、長く忘れたりし友の今を如何《いか》にと観《み》るに忙《いそがし》かり。
「殆《ほとん》ど一昔と謂うても可《よ》い程になるのぢやから話は沢山ある、けれどもこれより先に聞きたいのは、君は今日《こんにち》でも僕をじや、この荒尾を親友と思うてをるか、どうかと謂ふのじや」
 答ふべき人の胸はなほ自在に語るべくもあらず乱れたるなり。
「考へるまではなからう。親友と思うてをるなら、をる、さうなけりや、ないと言ふまでで是《イエス》か否《ノウ》かの一つじや」
「そりや昔は親友であつた」
 彼は覚束無《おぼつかな》げに言出《いひいだ》せり。
「さう」
「今はさうぢやあるまい」
「何為《なぜ》にな」
「その後五六年も全く逢はずにゐたのだから、今では親友と謂ふことは出来まい」
「なに五六年|前《ぜん》も一向親友ではありやせんぢやつたではないか」
 貫一は目を側《そば》めて彼を訝《いぶか》りつ。
「さうぢやらう、学士になるか、高利貸になるかと云ふ一身の浮沈の場合に、何等の相談も為《せ》んのみか、それなり失踪《しつそう》して了うたのは何処《どこ》が親友なのか」
 その常に慙《は》ぢかつ悔《くゆ》る一事を責められては、癒《い》えざる痍《きず》をも割《さか》るる心地して、彼は苦しげに容《かたち》を歛《をさ》め、声をも出《いだ》さでゐたり。
「君の情人《いろ》は君に負《そむ》いたぢやらうが、君の友《フレンド》は決《け》して君に負かん筈《はず》ぢや。その友《フレンド》を何為《なぜ》に君は棄てたか。その通り棄てられた僕ぢやけれど、かうして又訪ねて来たのは、未《ま》だ君を実は棄てんのじやと思ひ給へ」
 学生たりし荒尾! 参事官たりし荒尾!! 尾羽《をは》打枯《うちから》せる今の荒尾の姿は変りたれど、猶《なほ》一片の変らぬ物ありと知れる貫一は、夢とも消えて、去りし、去りし昔の跡無き跡を悲しと偲《しの》ぶなりけり。
「然し、僕が棄てても棄てんでも、そんな事に君は痛痒《つうよう》を感ずるぢやなからうけれど、僕は僕で、友《フレンド》の徳義としてとにかく一旦は棄てんで訪ねて来た。で、断然棄つるも、又棄てんのも、唯|今日《こんにち》にある意《つもり》じや。
 今では荒尾を親友とは謂へん、と君の言うたところを以つて見ると、又今更親友であることを
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