う》の業《ごう》は曝《さら》さざるに、天か、命《めい》か、或《ある》は応報か、然《しか》れども独《ひと》り吾が直行をもて世間に善を作《な》さざる者と為《な》すなかれ。人情は暗中に刃《やいば》を揮《ふる》ひ、世路《せいろ》は到る処に陥穽《かんせい》を設け、陰に陽に悪を行ひ、不善を作《な》さざるはなし。若《も》し吾が直行の行ふところをもて咎《とが》むべしと為さば、誰か有りて咎《とが》められざらん、しかも猶《なほ》甚《はなはだし》きを為して天も憎まず、命も薄《うす》んぜず、応報もこれを避《さく》るもの有るを見るにあらずや。彼等の惨死《さんし》を辱《はづかし》むるなかれ、適《たまた》ま奇禍を免れ得ざりしのみ。
 かく念《おも》へる貫一は生前《しようぜん》の誼深《よしみふか》かりし夫婦の死を歎きて、この永き別《わかれ》を遣方《やるかた》も無く悲み惜むなりき。さて何時《いつ》までかここに在らんと、主の遺骨を出《いだ》せし辺《あたり》を拝し、又妻の屍《かばね》の横《よこた》はりし処を拝して、心佗《こころわびし》く立去らんとしたりしに、彼は怪くも遽《にはか》に胸の内の掻乱《かきみだ》るる心地するとともに、失せし夫婦の弔ふ者もあらで闇路《やみぢ》の奥に打棄てられたるを悲く、あはれ猶《なほ》少時《しばし》留らずやと、いと迫《せ》めて乞ひ縋《すが》ると覚ゆるに、行くにも忍びず、又立還りて積みたる土に息《いこ》へり。
 実《げ》に彼も家の内に居て、遺骸《なきがら》の前に限知られず思ひ乱れんより、ここには亡き人の傍《そば》にも近く、遺言に似たる或る消息をも得るらん想《おもひ》して、立てたる杖に重き頭《かしら》を支へて、夫婦が地下に齎《もたら》せし念々を冥捜《めいそう》したり。やがて彼は何の得るところや有りけん、繁《しげ》き涙は滂沱《はらはら》と頬《ほほ》を伝ひて零《こぼ》れぬ。
 夜陰に轟《とどろ》く車ありて、一散に飛《とば》し来《きた》りけるが、焼場《やけば》の際《きは》に止《とどま》りて、翩《ひらり》と下立《おりた》ちし人は、直《ただ》ちに鰐淵が跡の前に尋ね行きて歩《あゆみ》を住《とど》めたり。
 焼瓦《やけがはら》の踏破《ふみしだ》かるる音に面《おもて》を擡《もた》げたる貫一は、件《くだん》の人影の近く進来《すすみく》るをば、誰ならんと認むる間《ひま》も無く、
「間さんですか」
「おお
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