お懸け遊ばしませんやうに。この熱も直《ぢき》に除《と》れまするさうでございますから、又改めてお出《いで》を願ひたう存じます。今日《こんにち》は私御名刺を戴《いただ》いて置きまして、お軽快《こころよく》なり次第私から悉《くはし》くお話を致しますでございます」
「はあ、それはそれは」
「実は、何でございました。昨日もお見舞にお出で下すつたお方に変な事を申掛けまして、何も病気の事で為方《しかた》もございませんけれど、私弱りきりましたのでございます。今日《こんにち》は又|如何《いかが》致したのでございますか、昨日とは全《まる》で反対であの通り黙りきつてをりますのですが、却つて無闇《むやみ》なことを申されるよりは始末が宜《よろし》いでございます」
 かくても始末は善しと謂ふかと、翁《をぢ》は打蹙《うちひそ》むべきを強《し》ひて易《か》へたるやうの笑《ゑみ》を洩《もら》せば、満枝はその言了《いひをは》せしを喜べるやうに笑ひぬ。彼は婆を呼びて湯を易へ、更に熱き茶を薦《すす》めて、再び客を席に着かしめぬ。
「さう云ふ訳では話も解りかねる。では又上る事に致しませう。手前は鴫沢隆三と申して――名刺を差上げて置きまする、これに住所も誌《しる》してあります――貴方は失礼ながらやはり鰐淵《わにぶち》さんの御親戚ででも?」
「はい、親戚ではございませんが、鰐淵さんとは父が極御懇意に致してをりますので、それに宅がこの近所でございますもので、ちよくちよくお見舞に上つてはお手伝を致してをります」
「はは、さやうで。手前は五年ほど掛違うて間とは会ひませんので、どうか去年あたり嫁を娶《もら》うたと聞きましたが、如何《いかが》いたしましたな」
 彼はこの美き看病人の素性知らまほしさに、あらぬ問をも設けたるなり。
「さやうな事はついに存じませんですが」
「はて、さうとばかり思うてをりましたに」
 容儀《かたち》人の娘とは見えず、妻とも見えず、しかも絢粲《きらきら》しう装飾《よそほひかざ》れる様は色を売る儔《たぐひ》にやと疑はれざるにはあらねど、言辞《ものごし》行儀の端々《はしはし》自《おのづか》らさにもあらざる、畢竟《ひつきよう》これ何者と、鴫沢は容易にその一斑《いつぱん》をも推《すい》し得ざるなりけり。されども、懇意と謂ふも、手伝と謂ふも、皆|詐《いつはり》ならんとは想ひぬ。正《ただし》き筋の知辺《しるべ
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