。これが又禿の御意《ぎよい》に入つたところで、女め熟《つらつ》ら高利《アイス》の塩梅《あんばい》を見てゐる内に、いつかこの商売が面白くなつて来て、この身代《しんだい》我物と考へて見ると、一人の親父よりは金銭《かね》の方が大事、といふ不敵な了簡《りようけん》が出た訳だね」
「驚くべきものじやね」
荒尾は可忌《いまは》しげに呟《つぶや》きて、稍《やや》不快の色を動《うごか》せり。
「そこで、敏捷《びんしよう》な女には違無い、自然と高利《アイス》の呼吸を呑込んで、後には手の足りん時には禿の代理として、何処《どこ》へでも出掛けるやうになつたのは益す驚くべきものだらう。丁度一昨年|辺《あたり》から禿は中気が出て未《いま》だに動けない。そいつを大小便の世話までして、女の手一つで盛《さかん》に商売をしてゐるのだ。それでその前年かに親父は死んだのださうだが、板の間に薄縁《うすべり》を一板《いちまい》敷いて、その上で往生したと云ふくらゐの始末だ。病気の出る前などはろくに寄せ付けなんださうだがな、残刻と云つても、どう云ふのだか余り気が知れんぢやないかな――然《しか》し事実だ。で、禿はその通の病人だから、今ではあの女が独《ひとり》で腕を揮《ふる》つて益す盛に遣《や》つてゐる。これ則《すなは》ち『美人《びじ》クリイム』の名ある所以《ゆゑん》さ。
年紀《とし》かい、二十五だと聞いたが、さう、漸《やうや》う二三とよりは見えんね。あれで可愛《かはゆ》い細い声をして物柔《ものやはらか》に、口数《くちかず》が寡《すくな》くつて巧い言《こと》をいふこと、恐るべきものだよ。銀貨を見て何処の国の勲章だらうなどと言ひさうな、誠に上品な様子をしてゐて、書替《かきかへ》だの、手形に願ふのと、急所を衝《つ》く手際《てぎは》の婉曲《えんきよく》に巧妙な具合と来たら、実に魔薬でも用ゐて人の心を痿《なや》すかと思ふばかりだ。僕も三度ほど痿《なや》されたが、柔能く剛を制すで、高利貸《アイス》には美人が妙! 那彼《あいつ》に一国を預ければ輙《すなは》ちクレオパトラだね。那彼には滅されるよ」
風早は最も興を覚えたる気色《けしき》にて、
「では、今はその禿顱《はげ》は中風《ちゆうふう》で寐《ね》たきりなのだね、一昨年《をととし》から? それでは何か虫があるだらう。有る、有る、それくらゐの女で神妙にしてゐるものか、無いと見
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