ると、彼と技をくらべようという者がたくさん出て来ました。しかし誰も彼に及ぶ者はありませんでした。飛び上がる方ももちろんかないませんでしたが、飛び下りる方になると、大抵《たいてい》の者は足を挫《くじ》いたり腰《こし》の骨を折ったりして、逃げ戻りました。
 ケメトスはますますその技を磨《みが》くと共に、夜の空の流れ星を眺めては、お祖父さんの言葉を思い出して、一生一代の晴業《はれわざ》をして名を上げたいと考えました。
 ある時王様は諸国の王を招かれて、盛んな宴を催されました。そして御自慢のケメトスを召されて、技を見せてくれと頼まれました。諸国の王様達も、かねがねケメトスの評判を聞いていられますので、一緒に所望されました。
「いよいよ時期が来た」とケメトスは考えました。
 宮殿の横に、高さ三百|尺《しゃく》の塔が立っていました。大きな河の流れや森を見下ろして、空高くそびえた、実に見事な塔でした。ケメトスはその塔の頂《いただき》から、夜、炬火《たいまつ》を手に持って、飛び下りると言い出しました。
 王様はじめ人々はびっくりしました。いくらケメトスが身軽《みがる》だからといって、三百尺の上から飛び
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