下りられるわけはありません。そんなことをしたら体が粉みじんになると言って、人々は口をそろえて止めました。しかしケメトスは無理に言い張りました。彼の言うままに任せるの外はありませんでした。
三
その晩になると、大変な騒ぎとなりました。国王はじめ諸国の王様達は、塔の近くの河原《かわら》に席を設けられ、その他の者はあたりを取り巻き、都の人々や近在の人達まで出て来て、塔が見える限りの土地は見物人で埋まりました。ケメトスが飛び下りる塔の下の場所には、もうせんが敷きつめられ、まわりにはかがりびが焚《た》かれました。
ケメトスは塔の頂に上って、空の星に向かって長い間祈りを捧げました。お祖父《じい》さんから聞かされたことが、自分の運命が、今はっきりとわかる気がしました。やがて彼は右手に炬火を持って、塔の頂に現われました。それを見て四方から、雷《らい》のような喝采《かっさい》のどよめきが起こりました。塔の上から眺《なが》めると、一面に茫《ぼう》とした星明りでした。大河《たいが》の流れがえんえんと続いており、所々に森がこんもりと茂り、宮殿からずっと都の町が屋根並《やねなみ》を揃《そろ》
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