とではありませんでした。それでケメトスは、高い所へ飛び上がったり飛び下りたりして、せめてもの心やりをしたいと思いました。飛び上がる方はむずかしいけれど、飛び下りる方はさほどでもありませんでした。
 ケメトスは一生懸命になって、高い所から飛び下りる練習をいたしました。野山を駆け廻ったり、木によじ登ったり、いたずらばかりしていたものですから、大変身軽になっていました。一年もたつうちには、ちょっとした呼吸《こきゅう》でもって、屋根や木の枝やその他の高い所から、わけなく飛び下りられるようになりました。
「ケメトスは鳥の生れ変わりだ」などと言って、近所の人達は驚いていました。彼はますます得意になって、その技を練習いたしました。

      二

 ケメトスの評判は次第《しだい》に四方へ広がって、ついにその土地の王様の耳にはいりました。王様は珍しいことに思われて、人を遣《つか》わしてケメトスを招かれました。
 ケメトスがいよいよ都へ出発する時になって、お祖父《じい》さんは彼を側に呼んで言いました。
「とにかく一つの技能に秀《ひい》でるということは、それが不正なものでない限り、至《いた》ってよいこ
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